みちのく金融マンのつぶやきブログ(旧「メタセコイアの宿り木で」)

みちのくを拠点に生活している金融業界歴十数年のサラリーマンです。心と身体を休めつつ、はんなりとした日々を送っています。

総国営化する本邦企業

本日、東証などが発表した2019年度の株式分布状況調査によれば、20年3月末時点の上場投資信託ETF)を介した本邦企業に係る日銀保有分は、1年前に比べて1%強増の約5.7%(※1)となった。

※1 日本経済新聞社による推計値。20年度末時点の東証一部(=TOPIX構成銘柄)の時価総額が530兆円強、同時期の日銀の第135回事業年度における金銭の信託(信託財産指数連動型上場投資信託ETF)分が29兆円強から逆算した値と思われる。

 

すでに述べたように、前白川総裁時代に始まった日銀によるETF買入れは他の中央銀行が採らない「劇薬」とも呼べる処方箋の一つ(※2)であり、黒田総裁に代わってからはその規模拡大(※3)に拍車がかかっている。具体的には、現時点における日銀によるETF保有額は約37兆円にのぼり、公的年金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や3共済(※4)まで含めるとその額はさらに膨らむものと思われる。

※2 今回のコロナ危機で米連邦準備金制度(FRB)もセカンダリーマーケット・コーポレートクレジットファシリティー(SMCCF)に基づいてETF買入れを開始したが社債ETFにかかるもののみとなっており、6月16日までの保有分は約68億ドル(約7,300億円)に止まる。7月2日時点におけるFRB社債保有額は100.1億ドル。

※3 ETFの年間買入枠は、1兆円→3兆円→3.3兆円→6兆円→12兆円と拡大の一途。

※4 国家公務員共済組合連合会地方公務員共済組合連合会、及び日本私立学校振興・共済事業団をいう。

 

先進国でこれだけの規模で政府系の株式保有比率が大きいところはなく、総国営化といっても差し支えない。「スチュワードシップ・コード」を批准しているGPIFや3共済と異なり日銀はこれを行っていないが、委託先である信託銀行がこれに服することとなっているため、本邦企業のガバナンス向上に幾らかは寄与していると言えるのかもしれない。ただ、本年6月12日にはダボついたETFを貸し出す制度も開始したが、当初思っていたような利用が進まず、日銀内でもこれといった妙手が見つかっていないのが実情のようだ。

 

ETF(・J-REIT)買入れに止まらず、マイナス金利イールドカーブコントロール(YCC)と、まさに劇薬づくしとも言える近年の日銀の金融政策だが、多すぎる薬の服用は必ず副作用を生む。今日のような危機だからこそ、日銀には中長期的なETF買入れの功罪についての分析・報告(国民に対して)及び明確な出口戦略(※5)の検討・策定が求められている。

※5 過去には受け皿としての「認可法人銀行等保有株式取得機構」を設立したうえで、ETF等を組成する証券会社等または自己株式の取得を希望する発行会社の申込みに基づき、当該機構の会員(主として金融機関)が保有する株式の買取りまたは売付けの媒介を行った例がある。なお、コロナ禍にあって、一部から日銀が保有するETF時価36兆円程度)を全国民に配布する案が取り立たされている。仮に今回の特別定額給付金予算(12 兆8,802 億93 百万円)で逆算すると、国民一人当たり28万円相当(ご懸念の通り、ETF価格は日々変動するためどこかで割り当てる受益権口の基準日を設ける必要がある)のETFが割り当てられることとなる。ただ、特別定額給付金の配布にあたっても銀行口座を有していない人やDV(配偶者等による暴力)被害者に行き渡らないといった様々な問題が起きていることから、例えばマイナンバーポイントなどできちんと国民一人一人に還元できるインフラ基盤が整わない限り実現は相当に困難であろう。

 

参照1)2020年10月23日付朝日新聞記事「公的マネーが大株主、東証1部の8割 4年前から倍増」

www.asahi.com

参照2)2020年11月18日付日経新聞記事「「日銀ETF」個人へ譲渡案 導入関与のOBが出口策」

www.nikkei.com

参照3)2020年12月3日付日経新聞記事「強まる日銀の「孤独」 最大の日本株保有者に」

www.nikkei.com

参照4)2021年1月17日付日経新聞記事「日銀ETF 出口戦略を問う」

www.nikkei.com

参照5)ロイター記事

www.msn.com

参照6)日経新聞記事

www.nikkei.com