みちのく金融マンのつぶやきブログ(旧「メタセコイアの宿り木で」)

みちのくを拠点に生活している金融業界歴十数年のサラリーマンです。心と身体を休めつつ、はんなりとした日々を送っています。

上場会社における政策保有株式対応に関する私案

コーポレートガバナンス・コードで、上場会社における政策保有株式への対応(いわゆる「持ち合い解消・売却」)が叫ばれて久しい。ここでは、近年の日銀によるETF買入れ制度の深掘りと合わせて、私・水曜日のクマが上場会社が採り得る政策保有株式対応を考えてみる。

上場会社、とくに地方銀行をはじめとした金融機関(生損保含む)は、本邦が間接金融主体とするその歴史的な経緯から数多くの企業の株式を保有している。外目から見れば、塩漬けになっているそれら株式を売り払って今後の有望なマーケットへと資産を振り向ければ良いだろうと思うだろう。ただ、保有する株式の多くはその土地で多くの雇用を創出している・いた企業のものであり、単純なエグジット(売却)は金融機関がコミットメントを放棄したようにも見えるのでなかなかできないのだ。もちろん、企業としても金融機関に株式を持ってもらうことで関係性(いざとなれば融資を受けることができる関係を対外的にアピール)を維持することもできるし、安定株主としての期待が大きいこともある。ただ、日銀による超低金利政策で金融機関自体のマージン(利鞘)が減っている中、これ以上の放置は限界にきていることもまた事実である。

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すでにいろいろなところで書いている通り、日銀は異次元緩和によって国内のETF買入れを拡大しており、日本で年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を抜いて一番の株主に躍り出ている。ETFというのはそのスキーム上魔法のように無限に作り出せるものではなく(金銭信託型ではなく現物出資型の場合を想定)、上場会社の浮動株式をもとに組成される。すなわち、今の株高は日銀がマーケットの浮動株を買いあさった挙句、少なくなった株式の評価がかさ上げされた結果ということに他ならない。では浮動株式を増やせばいいということになるが、バブルでもないこのご時世に増資(新たに株式を発行して資金調達をすること)なんかすれば株式の下落を招くことになるため、会社としても踏み切ることは難しいだろう。

日銀はETFをもっと買い入れたいがマーケットの残存株式は残り少ない、金融機関は保有する政策株式を売りたいが売れない、事業会社は安定株主を確保したいが他にうまい手が見つからない、、、。この三つ巴を解決する一つの手段として、金融機関がETF組成のために運用会社に自らが保有する政策保有株式を貸し出すというのはどうだろうか。このスキームであれば、あくまでも株主としての立場は金融機関が保持しつつ、新たなETF組成のための実弾が確保されることになる。この場合、金融機関は貸株料相当を運用会社から得られる(=実際には信託報酬相当分から差し引いたものとなる)ため、リターン(収益)も改善する。

金融機関にはETF組成に必要なバスケット(日経平均型のETFを組成しようとした場合の最低ロットは10億円以上)までは持っていないという声も一部にはあるかもしれないが、何も完全法日経平均であれば225銘柄すべてを1単位以上保有することで事実上トラッキングエラーをなくす運用方法)ではなくてもよいのだ。例えば、不足する分は準完全法やサンプリング法など(ベータ(=連動性)を原指数に近づけるために一部を日経平均先物TOPIX先物で補完)で運用するか、もしくは他の金融機関と袋(口座口)を一緒にして運用することも考えられなくはない。筆者としてはできれば貸し出しではなく、将来的には運用会社への一括売却ができれば金融機関が新しい産業へ振り向ける資金が生まれるためにベストだと思っているが、それは次のステップということになるだろう。

新しいスキームで最初から完全なものなど存在しない。先ずはやってみる、トライ&エラーこそが大事だと思うのだ。もう一度、本邦の金融機関がリスクマネーの供給先となることを強く期待したい。