みちのく金融マンのつぶやきブログ(旧「メタセコイアの宿り木で」)

みちのくを拠点に生活している金融業界歴十数年のサラリーマンです。心と身体を休めつつ、はんなりとした日々を送っています。

木の枝・木の実を酒の肴たらんとする

作家・夢枕獏さんの「陰陽師」シリーズのファンだ。

中学生のとき親から買ってもらったのを機に、以来、かれこれ四半世紀ずーっと文庫本を買っている。平安時代を生きる稀代の陰陽師である安倍晴明と殿上人の源博雅の二人が織りなす物語は、現代社会で生きる私をしばし別社会に誘ってくれる。

 

物語の中では、二人がお酒を呑むシーンが数多く出てくる。

春の野草を見ながら、夏の鬱蒼とした緑を見ながら、秋の月を見ながら、冬の真っ白な庭を見ながら、博雅はいつも「うつくしいな、晴明」と言うのである。本当に博雅はいい漢である。

 

さて、「鬼小町」という切ない物語(飛天ノ巻、第5話)があり、そこに出てくるお酒のシーンが美味しそうだったので再現しようと学生時代に一人試みたことがある。酒の肴は「木の枝」や「木の実」であったので、アパートの近くにあった公園に行き、美味しそうな木の枝(変な表現だが)と図鑑で調べた食べれそうな木の実(椎の実はなかったのでどんぐりで代替)をとってきた。それらを水洗いし、木の実は皮をむいて水でアクをとって、準備は完了。お酒を持ってきて、酒盛り開始。

 

まず、木の枝を一口。

・・・苦い。噛み締めれば噛み締めるほど、青臭く、筋張ってくる。お酒を口に含むとそれが強調され、何とも言えぬ。

次に、木の実を一口。

・・・えぐみが凄い(目を見開き、しばし悶絶)。水に浸してアクを抜いたと思ったのに、アクの味しかしない。縄文人がどんぐりを主食としていたのは聞いているが、平安貴族の晴明と博雅も木の実を酒の肴として食べていたのか。

注)調べてみると、どんぐりのアク抜きは水ではだめで、ペースト状にしたものをお湯で数回湯だたせる必要があるとのこと。

 

無念の途中敗退。平安貴族になれなかった私は、木の枝と木の実のお口直しに缶詰のサンマのかば焼きを食べつつ、平成(これを試した当時)に生きている有難さを一人噛み締めた。