ふと、地方紙(西日本新聞)を見ていて興味深い記事があったのでここで紹介する。
佐賀県は神埼郡吉野ケ里町松隈地区というところで、今月9日から固定価格買い取り制度(FIT)を活用して地区の小水力発電で売電を開始したというものである。記事を見れば、同地区の約40世帯の住民全員が少額のお金を出し合って受け皿である「松隈地域づくり㈱」に出資したとあるので、住民参加型の地域づくりとしてはとても面白い試みである。事業モデルを詳しく見てみると、初期投資額6,000万円(発電機の購入費用)はFITを介した売電収入から年500万円を充て、残余は住民に還元する仕組みだ。スキームの詳細は【下図】を参照。
金融という職業柄、やはり気になるのはキャッシュフローだ。スキーム図を見てもらうと分かる通り、FITの存在が前提条件(※)となっているため、仮に将来国のエネルギー政策に変更があった場合に電気料金の変動リスクを受け皿である「松隈地域づくり㈱」が負うことになってしまう。売電に係る詳しい契約内容については、これ以上は分からない。ならば価格ヘッジすればいいと思うかもしれないが、たかだか出力30キロワット規模の小水力発電に価格ヘッジをかけるとヘッジコストの方が上回ってしまう(いわゆるオーバーヘッジ)。
※ FITがなくなると市場(変動)価格となるわけだが、これまで上乗せしていた分がなくなるため売電価格は下がる可能性が高い。
まだ”佐賀モデル”は始まったばかりなので評価のしようがないものの、住民自らが地区の存続・発展に向けてリスクテイク(=株式会社なので住民が無限責任を負うわけではない、失敗しても損失は当初の出資金のみ)したという意味では大いに学ぶことがある。地方創生はお上からではなく、今後は住民が主体となって行われる例がもっと増えることを期待したい。
関連記事)西日本新聞ウェブサイト
関連記事)毎日新聞
関連記事)産経新聞