みちのく金融マンのつぶやきブログ(旧「メタセコイアの宿り木で」)

みちのくを拠点に生活している金融業界歴十数年のサラリーマンです。心と身体を休めつつ、はんなりとした日々を送っています。

本邦ETF市場の概況(2020年7月)_日銀、投信協

投資信託協会から2020年7月末時点における本邦ETF市場に係るデータが公表されていたので、日本銀行が進めるETF買入れ状況と合わせてここで概観する。

  • 2020年7月末時点の国内籍ETFの純資産残高は43兆5,602億円。うち、日本銀行が買入れを進めるETFの残高(簿価)は33兆8,043億円(設備・人材投資に係るものを含む)となり、ETF発行済み受益権残高におけるシェアは4分の3超を占める。もはや池の中のクジラどころではなく、さながら子供用プールで暴れるシャチである。内訳等の詳細については、【下グラフ】を参照。
  • ならば、ETFをもっと発行して母数を増やし日銀シェアを下げればいいかもしれないと思うかもしれないが、政策的持合い株や浮動株等の問題もあって一筋縄ではいかない。そう、もはやETFをつくる原材料が枯渇(=子供用プールに入れる水がない)し始めているのだ。しかもこのシャチ、10年前に水族館(本石町、日銀本店所在地)から外に出てきたのに水道水(外国株式や外国債券)ではだめで、子供用プールの水しか受け付けないというから余計にややこしい。
  • 調べてみて驚いたが、東京証券取引所が発表している東証一部時価総額は2020年7月時点で565兆4,768億4,700万円であり、これを母数にしたとしても日銀のETFを介した間接的な本邦上場企業保有シェアは約5.98%(注:個別銘柄では5%を超えると金商法上の大量保有報告書の提出対象となる。この場合、日銀の業務委託先である信託銀行名義(=再信託先としての日本カストディ銀行(※1))で出すこととなるにも及ぶ。なお、この中には国内最大と言われる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や付随する3共済は含まれていないので、これらを加えると大方の上場企業において国又は国に準ずる機関が大株主となっていることが推測できる。
  • 一部の有識者の間では日銀が保有するETFを新型コロナの景気対策の一つとして国民に配布すべきとの声もあるらしいが、令和版「証券民主化運動」にしては話が雑すぎる(⇒証券取引口座を持っている人はそもそも多くないし、ETFを配布しても結局大多数は市場で売却して株式市場が大混乱になる)と思う次第である。今後の出口戦略(※2)を考えたときに、いつも私・水曜日のクマの頭は痛くなるのだ。

※1  本年7月27日、みずほフィナンシャルグループ三井住友トラスト・ホールディングスが系列の資産管理銀行(JTCホールディングス、日本トラスティ・サービス信託銀行、及び資産管理サービス信託銀行の3行)を合併し、「日本カストディ銀行」が発足。 

※2 非難を恐れず私が思いつく限りのウルトラC的な解決策の一つを言えば、2020年3月末時点で国内企業の保有する現・預貯金は201兆9,088億円(財務省「法人企業統計」)あり、日銀が保有するETFの取得簿価を上回るので、ETFを一度バラしたうえで企業に自らの株式を当該現・預貯金で買ってもらう(こうすれば相対でやりとりするので企業の株価も下がらず、理論的に日銀にも譲渡損は出ない=いわゆる国民負担が発生しない)というもの。これは、事実上TOPIX構成銘柄全社に強制的に自社株式の買い取りをさせるものであり、日銀のバランスシートから対象企業のバランスシートへと付け替えを企図したスキームに他ならない。対象企業にとっては頼んでもいないのに株式を買った人がある日突然大量の株式買取り請求に来られても困る(実際に、買い取った自己株を金庫株として持ち続けるか直ちに償却するかという新たな問題が発生することが容易に想定される)というのも事実であり、非常に困った問題である。

更なる腹案としては、対象企業の自社株買取期間を設けるというものである。例えば、一律に5年間や10年間といった期間を設けて一度に全部ではなく何度かに分けて買入れするというものを認めるものだ。勿論期間満了までには全部買い入れてもらうことが前提となるが、一方で本業が赤字とかでどうしてもそれができない企業が出てくることも想定される(そもそもこのお金は本来ならば設備投資や人材育成等に充てられるものであり、日銀がそれにブレーキをかけるような方策をとることは矛盾しないかも大いに検討の余地があろう。)。そのような場合には、メインバンクなどから株式買い取り専用の融資を設定することも一つの手かもしれない。ただ、これは成績の良くない企業が手っ取り早くROEを上げるためにとる手法の一つであり、これを推奨・助長することにもなりかねないのでやはり難しい。。。やっぱり、頭痛薬を買ってこよう。

 

8/19追記 日銀元理事の門間一夫みずほ総合研究所エグゼクティブエコノミストは、17日のBloombergとのインタビューで、年間の買入れ上限を12兆円に引き上げたETFについては「持続性のある買い方」にすることが重要だと主張。実際、日銀は18日のETF買入れに当たって従来の1,000億円から800億円に減額。今後の日銀の動向が注目される。

www.bloomberg.co.jp

 

 

<グラフ:本邦ETF市場の概況(2020年7月)>

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BOJ/ITAJ_July2020

出典)日銀ウェブサイト及び投資信託協会ウェブサイトに掲載されたデータをもとに、筆者にて作成

 

参照)①日本銀行ウェブサイト

www3.boj.or.jp

投資信託協会ウェブサイト

www.toushin.or.jp