みちのく金融マンのつぶやきブログ(旧「メタセコイアの宿り木で」)

みちのくを拠点に生活している金融業界歴十数年のサラリーマンです。心と身体を休めつつ、はんなりとした日々を送っています。

新型コロナが引き起こす不正

少しデータは古いが、今年7月に(一社)日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN) からコロナ禍における不正に関するレポートが出ていたため、ここで見てみたい。

本調査が行われたのは5月時点(時間軸的には非常事態宣言が出された頃)であるにもかかわらず、不正対策の専門家の68%(※1)がすでに何らかの不正の増加を認識している。加えて、来年5月時点には同じく93%(※1)が不正の発生頻度は増加するという予測をしている。ただ、これは何も今回の新型コロナに限ったことではなく、過去にはリーマン・ショックといった世界的な金融危機の際にも同様な傾向が見られた。とすれば、今後予測される不正とは何だろう?

5月時点で一番認識されていた不正はサイバー攻撃(※2)だった。これは当然と言えば当然で、これまで出社するのが当たり前だったのが流れで在宅勤務となり、会社と同様のセキュリティ水準にない労働環境は狙われやすい。今後12か月との比較でいえば、横領(33%→71%)や保険における不正(46%→81%)が増えているものの、最も注目すべきは財務諸表不正(30%→71%)だろう。というのも、これは一番多くのステークホルダー(銀行等の債権者や株主、取引先、社員)にとって被害が甚大な不正だからである。

特に20月3月期決算(新型コロナの影響は最後の2か月ほど=ジャブ)は何とか乗り切れた企業であっても、通年でボディーブローが効いてくる21年3月期決算はそうはいかない。企業にとっては継続企業の前提注記(ゴーイングコンサーン)等を逃れようと、会計士等が実査に入れない(※3)ことを口実に会社の数字を操作するインセンティブが働きやすくなるかもしれない。また、ある企業は銀行からの融資を引き出すためにも信用格付けの維持を至上命題とし、B/Sをよく見せるための資産の付替えをするかもしれない。

レポートは短いが、ササッと眺めるだけでコロナ禍において私たちが何に目を配るべきかを色々教えてくれる。

※1 「著しく増加」「やや増加」の合計値。

※2 いわゆる「暴露型ウイルス(ランサムウェア)」によるサイバー攻撃を受けた企業は20年1月~10月に世界で1,000社を超えたことが日経新聞社とトレンドマイクロ社の共同調査で判明。11/16に玩具大手「カプコン」がランサムウェア被害に遭い、最大35万人分の個人情報が流出した事件が記憶に新しい。ロシア系犯罪組織の関与もささやかれているが、詳細は不明。

※3 例えば、領収書といった証憑も在宅勤務の影響によりPDF等のデジタルデータで保存されるようになったため、データ化の過程等で改ざんのおそれがある。 

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©いらすとや

 

参照1)ACFE JAPANウェブサイト

www.acfe.jp

参照2)ACFE JAPAN『職業上の不正と濫用に関する国民への報告書(2020年版)』

https://www.acfe.jp/upload/RTTN2020_J.pdf

関連記事)日経新聞

www.nikkei.com